建築物省エネ法改正に伴う建築基準法の改正における不動産取引の重要事項説明における説明ポイントについて解説します。

不動産知識

こんばんわ。
コマドリです。

この記事では、近年法改正が行われた「建築物省エネ法」と、この法律の改正内容に合わせて改正された「建築基準法」について、その改正内容をまとめています。

建築物省エネ法、と聞いてなんか環境を意識した法改正が行われたのかな?と考える方がおそらく多いのかとは思います。

そして、この法改正によって、不動産取引上における重要事項説明で、該当する場合には説明が必要な対象になる部分があります。

この記事では、まず建築物省エネ法がどのような法改正が行われて、そのうえで建築基準法のどのような内容が改正されて、重要事項説明で説明必要な箇所は何が変わったのか、についてまとめています。

ぜひご参考ください。



建築物省エネ法の改正の背景・目的

「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(略して、建築物省エネ法)」は、社会経済情勢の変化に伴い、建築物におけるエネルギーの消費量が著しく増加していることを考慮して制定されました。
 この法律の目的は、以下の通りです。

  1. 基本的な方針の策定: 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する基本的な方針を策定し、エネルギーの使用の合理化と非化石エネルギーへの転換を図ります。
  2. 一定規模以上の建築物への適合性確保: 一定規模以上の建築物に対して、建築物エネルギー消費性能基準への適合性を確保するための措置を講じます。
  3. 建築物エネルギー消費性能向上計画の認定等: 建築物エネルギー消費性能向上計画の認定やその他の措置を通じて、エネルギーの使用効率を高めます。

第一条 この法律は、社会経済情勢の変化に伴い建築物におけるエネルギーの消費量が著しく増加していることに鑑み、建築物のエネルギー消費性能の向上及び建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進(以下「建築物のエネルギー消費性能の向上等」という。)に関する基本的な方針の策定について定めるとともに、一定規模以上の建築物の建築物エネルギー消費性能基準への適合性を確保するための措置、建築物エネルギー消費性能向上計画の認定その他の措置を講ずることにより、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(昭和五十四年法律第四十九号)と相まって、建築物のエネルギー消費性能の向上等を図り、もって国民経済の健全な発展と国民生活の安定向上に寄与することを目的とする。

建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律 第1条

建築物省エネ法の改正概要(令和4年6月17日公布)

 令和4年6月に公布された改正建築物省エネ法は、2050年のカーボンニュートラル実現と2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指し、建築物分野における省エネ性能の向上を図るための措置を強化する部分の内容が盛り込まれています。

 主な改正による変更点は以下の通りです。

  • 建築主の性能向上努力義務:新築、増築、改築を行う建築物において、省エネ基準を上回る性能の確保を努めることが義務付けられました。
  • 建築士の説明努力義務:建築士は、設計を委託した建築主に対し、エネルギー消費性能の向上に資する事項を説明するよう努めることが求められます。
  • 省エネ基準適合義務の対象拡大:すべての新築住宅・非住宅に省エネ適合義務が課せられ、増改築部分にも基準適合が求められます。
  • 適合性判定の手続き・審査:対象件数の増加に伴い、審査の簡素化・合理化が求められています。
  • 住宅トップランナー制度の拡充:一定戸数以上の住宅を供給する事業者に対し、省エネ基準を超える水準の基準を努力義務として課す制度が拡充されました。
  • 省エネ性能表示制度:消費者が建築物の省エネ性能を把握し、比較検討できるようにするための制度が導入されます。
  • 建築物再生可能エネルギー利用促進区域:地域の実情を踏まえた再生可能エネルギーの利用拡大を図るための区域が新たに設けられました。

建築基準法の改正概要(令和4年6月17日公布)

 以上の建築物省エネ法の改正に合わせて、建築基準法も一部改正されることとなりました。
 以下にその改正内容をまとめていますのでご参考ください。

  1. 建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し(公布日より3年以内の施行)
    • 木造建築物の建築確認検査や審査省略制度の対象を非木造と同様の規模に見直し。
    • 小規模伝統的木造建築物等に係る構造計算適合性判定の特例を設ける。
  2. 階高の高い木造建築物等の構造安全性の検証法の合理化(公布日より3年以内の施行)
    • 階高の高い3階建て木造建築物等の構造計算の合理化。
    • 構造計算が必要な木造建築物の規模の引き下げ。
  3. 中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化(公布日より3年以内の施行)
    • 3000㎡超の大規模建築物の木造化を促進。
    • 階数に応じて要求される耐火性能基準の合理化。
  4. 部分的な木造化を促進する防火規定の合理化(公布日より3年以内の施行)
    • 大規模建築物における部分的な木造化の促進。
    • 防火壁の設置範囲の合理化。
  5. 既存建築ストックの省エネ化と併せて推進する集団規定の合理化(令和5年4月1日施行)
    • 建築物の構造上やむを得ない場合における高さ制限に係る特例許可の拡充。
    • 建築物の構造上やむを得ない場合における建蔽率・容積率に係る特例許可の拡充。
  6. 既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化(令和5年4月1日施行)
    • 住宅の採光規定の見直し。
    • 一団地の総合的設計制度等の対象行為の拡充。

 これらの改正は、建築物の省エネ性能の向上と木造建築物の利用促進を目的としており、脱炭素社会の実現に向けた取り組みの一環として行われています。

 また、上記5つめの項目にある建蔽率と容積率の内容について、不動産取引における重要事項説明で説明が必要となってきます。
 こちらを詳しく次で解説したいと思います。

重要事項説明書での説明ポイント(既存建築ストックの省エネ化と併せて推進する集団規定の合理化)

以下の内容が改正され、不動産取引における重要事項説明で説明が必要となっています。

  1. 絶対高さ制限の緩和
    第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域における建築物の最高高さを10mまたは12mで制限していた絶対高さ制限が、再生可能エネルギー源の利用に資する設備の設置のために必要な屋根に関する工事など(屋根の断熱改修や太陽光パネルの設置など)で構造上やむを得ない場合に限り、特定行政庁の許可を得て、この高さ制限を超えることができるようになりました。
  2. 建蔽率・容積率の緩和
    外壁の断熱改修や日射遮蔽のための庇の設置により、建築物の床面積や建築面積が増加し、容積率や建蔽率の制限に抵触することがあるため、屋外に面する部分の工事により容積率や建蔽率制限を超えることが構造上やむを得ない建築物に対する特例許可制度が創設されました。
  3. 機械室等の容積率不算入に係る認定制度の創設
    給湯設備の機械室等に対する容積率緩和の手続きにおいて、建築審査会の同意が必要でしたが、高効率給湯設備等を設置する場合の活用実績が多いことから、省令に定める基準に適合していれば、建築審査会の同意なく特定行政庁が認定することとされました。

 それぞれの条文についてみていきます。

絶対高さ制限の緩和

 これは、建築基準法第55条第3項にしっかり明記されております。

(第一種低層住居専用地域等内における建築物の高さの限度)

 再生可能エネルギー源(太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものをいう。第五十八条第二項において同じ。)の利用に資する設備の設置のため必要な屋根に関する工事その他の屋外に面する建築物の部分に関する工事を行う建築物で構造上やむを得ないものとして国土交通省令で定めるものであつて、特定行政庁が低層住宅に係る良好な住居の環境を害するおそれがないと認めて許可したものの高さは、前二項の規定にかかわらず、その許可の範囲内において、これらの規定による限度を超えるものとすることができる。

建築基準法第55条第3項

 以下の国土交通省HPにある画像もわかりやすいです。

国土交通省ウエブサイトより。

 また、もう一つ高度地区における高さ制限の特例許可制度もあり、これは建築基準法第58条第2項にしっかり明記されております。

(高度地区)
第五十八条 
 前項の都市計画において建築物の高さの最高限度が定められた高度地区内においては、再生可能エネルギー源の利用に資する設備の設置のため必要な屋根に関する工事その他の屋外に面する建築物の部分に関する工事を行う建築物で構造上やむを得ないものとして国土交通省令で定めるものであつて、特定行政庁が市街地の環境を害するおそれがないと認めて許可したものの高さは、同項の規定にかかわらず、その許可の範囲内において、当該最高限度を超えるものとすることができる。

建築基準法第58条第2項

建蔽率・容積率の緩和

 これは、建築基準法第52条第14項第3号と、同法第53条第5項第4号にそれぞれしっかり明記されています。

(容積率)
14 次の各号のいずれかに該当する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの容積率は、第一項から第九項までの規定にかかわらず、その許可の範囲内において、これらの規定による限度を超えるものとすることができる。

(略)
 建築物のエネルギー消費性能(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(平成二十七年法律第五十三号)第二条第一項第二号に規定するエネルギー消費性能をいう。次条第五項第四号において同じ。)の向上のため必要な外壁に関する工事その他の屋外に面する建築物の部分に関する工事を行う建築物で構造上やむを得ないものとして国土交通省令で定めるもの

建築基準法第52条第14項第3号

(建蔽率)
 次の各号のいずれかに該当する建築物で、特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの建蔽率は、第一項から第三項までの規定にかかわらず、その許可の範囲内において、これらの規定による限度を超えるものとすることができる。

(略)
 建築物のエネルギー消費性能の向上のため必要な外壁に関する工事その他の屋外に面する建築物の部分に関する工事を行う建築物で構造上やむを得ないものとして国土交通省令で定めるもの

建築基準法第53条第5項第4号

以下の国土交通省HPにある画像もわかりやすいです。

国土交通省ウェブサイトより。

機械室等の容積率不算入に係る認定制度の創設

この内容も、建築基準法第52条第6項第3号にしっかり明記されております。

(容積率)
14 次の各号のいずれかに該当する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの容積率は、第一項から第九項までの規定にかかわらず、その許可の範囲内において、これらの規定による限度を超えるものとすることができる。
 同一敷地内の建築物の機械室その他これに類する部分の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場合におけるその敷地内の建築物

建築基準法第52条第14項第1号

国土交通省HPにある画像もご参考ください。

国土交通省ウェブサイトより。

まとめ

・「建築物省エネ法」は、社会経済情勢の変化に伴い、建築物のエネルギー消費量が増加していることを考慮し、エネルギー効率向上と再生可能エネルギー利用を促進する法律です。

・令和4年6月に公布された改正建築物省エネ法は、2050年カーボンニュートラル実現と2030年度温室効果ガス削減目標に向けて、建築主の性能向上努力義務、建築士の説明努力義務、省エネ基準適合義務の拡大、適合性判定の手続き合理化、住宅トップランナー制度の拡充、省エネ性能表示制度の導入、再生可能エネルギー利用促進区域の設定など、建築物の省エネ性能向上を図るための措置を強化しました。

・令和4年6月17日に公布された建築基準法の改正は、建築物の省エネ性能向上と木造建築の利用促進を目的に、建築確認・検査の対象見直し、構造安全性の検証法合理化、防火規定の合理化、既存建築ストックの省エネ化推進、長寿命化規定の合理化を含む脱炭素社会実現への取り組みとして行われました。

・建築基準法の改正により、再生可能エネルギー設備の設置など構造上必要な場合に限り、絶対高さ制限の超過、建蔽率・容積率の特例許可、及び機械室の容積率不算入の認定が可能となり、不動産取引の重要事項説明での説明が必要になりました。

 以上、建築物省エネ法と建築基準法の改正による不動産取引の重要事項説明での追加説明が必要になったポイントについてまとめてみました。

 ものすごく簡単に言うと、この建築物省エネ法の改正により、建築物で使用する材料が増えたり、建築物省エネ法に適合する建築物を作る義務が定められたため、全体的に鑑みて、色々手間も増えますので総合的に建築費が上がることとなるということです。

 国の定める二酸化炭素削減等の環境対策の一環による施策でありますが、今後は建物価格がどのように影響してくるのか、気になるところです。

 また、他にも不動産取引における重要事項説明に関する記事をまとめていますので、ご参考ください。


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