古都保存法についてまとめてみました。不動産取引における重要事項説明での説明ポイントも教えます。

不動産知識

 こんにちわ。
 コマドリです。

 日本には歴史的な風土を守るために設けられた法律があります。
 その中でも「古都保存法」は、政治や文化の中心として歴史上重要な地位を持つ都市、いわゆる「古都」における歴史的風土を保護することを目的としています。

 この法律は、日本の伝統や文化を守り、後世に引き継いでいくために重要な役割を果たしています。
 不動産取引においても、古都保存法による制限がある場合、それは重要事項説明書に記載されるべき重要なポイントです。
 特に、京都市や奈良市など指定された10都市にある不動産が対象となります。

 この記事では、古都保存法の基本的なポイントや制限内容、土地所有者にとってのメリットなどをわかりやすく解説していきます。
 古都保存法について詳しく知りたい方や不動産取引を考えている方にとって、参考になる情報が提供出ればと思います。

古都保存法とは?

 古都保存法は、正式には、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」と呼びます。

 古都保存法は、歴史的な風土を守るために設けられた法律です。

 この法律は、日本固有の文化的資産として国民が共に享受し、後世に継承されるべき古都における歴史的風土を保存するために特別な措置を講ずることを目的としています。

 また、国土愛の高揚と文化の向上発展に寄与することを目指しています。
  ※古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法第1条より

重要事項説明でのポイント

 不動産取引において、古都保存法による制限がある場合、それは重要事項説明書に記載されるべき重要なポイントです。
 その重要事項説明においては、購入予定地である不動産が、後述する歴史的風土保存地区に該当する場合には、この古都保存法第8条第1項の内容を説明することが必要になります。

 ただ、この歴史的風土保存地区というのは、全国でも10都市しか指定されていないため、もし該当地を検討している方はご参考ください。

(都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限に該当する場合の重要事項で説明が必要な部分)
 古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法第八条第一項

宅地建物取引業法施行令 第3条第1項第3号

(特別保存地区内における行為の制限)
第八条 特別保存地区内においては、次の各号に掲げる行為は、府県知事の許可を受けなければ、してはならない。ただし、通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの、非常災害のため必要な応急措置として行なう行為及び当該特別保存地区に関する都市計画が定められた際すでに着手している行為については、この限りでない。
 建築物その他の工作物の新築、改築又は増築
 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
 木竹の伐採
 土石の類の採取
 建築物その他の工作物の色彩の変更
 屋外広告物の表示又は掲出
 前各号に掲げるもののほか、歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為で政令で定めるもの

古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法第8条第1項

上記古都保存法第8条第1項のとおり、歴史的風土特別保存地区内で、上記8つの行為を行う場合には府県知事の許可が必要ということです。

さらにいれば、古都保存法で指定する区域は、歴史的風土保存区域歴史的風土特別保存区域の2つに分かれ、この特別保存区域のほうのみ、宅建業法上で説明が必要になります。

つまりは、歴史的風土保存区域のほうは説明はしなくても問題はないということにはなるのですが、実務上、届け出義務は発生するため、この区域内に該当する場合でも重要事項で説明を行うほうが丁寧ではあろうかとは思います。

制限のある区域・地区

 古都保存法により、歴史的風土保存区域歴史的風土特別保存地区が設定されており、これらの区域内での建築物の新築や土地の造成などは、府県知事への届出や許可が必要になります。

 古都保存法による規制がかかっている指定都市は以下の通りです。

  • 京都市
  • 奈良市
  • 鎌倉市
  • 天理市
  • 橿原市
  • 桜井市
  • 奈良県生駒郡斑鳩町
  • 奈良県高市郡明日香村
  • 逗子市
  • 大津市

 これらの都市は、歴史的風土を保存するために特別な措置が講じられており、開発行為に関する規制が存在します。

歴史的風土保存区域

 歴史的風土保存区域とは、古都保存法に基づいて指定された地域で、日本の歴史上意義を有する建造物や遺跡が周囲の自然環境と一体をなして古都の伝統と文化を具現し、形成している土地の状況を指す。

規制内容

歴史的風土保存区域内では以下のような規制がかかっています。

届出が必要な行為
・特別保存地区を除く歴史的風土保存区域内で、建築物や工作物の新築、改築、増築。
・宅地の造成、土地の開墾、土地の形質の変更。
・木竹の伐採。
・土石の類の採取。
・歴史的風土の保存に影響を及ぼすその他の行為。

届出の例外
・通常の管理行為、軽易な行為、非常災害時の応急措置など政令で定める行為は届出不要。

お分かりの方もいるとは思いますが、あくまで届け出義務となりますので、許可制ではないということです。
特別保存区域よりは規制が緩やかなものであることがわかります。

指定区域やその面積

  • 神奈川県鎌倉市の山ノ内地区、逗子市の大町・材木座地区等 全989ha(9.89㎢)
  • 滋賀県大津市の比叡山・坂本地区等 全4,557ha(45.57㎢)
  • 京都府京都市の嵯峨嵐山地区等 全8,513ha(85.13㎢)
  • 奈良県橿原市、桜井市、斑鳩町等 全6,024ha(60.24㎢)

    総面積20,083ha(200.83㎢)

歴史的風土特別保存地区

 「歴史的風土特別保存区域」とは、日本の古都における貴重な歴史的風土を後世に継承するために設けられた、特別な保護を受ける地域のことです。
 これらの区域は、国や地方自治体によって特定され、その地域内での開発や変更が歴史的風土保存区域よりも厳しく制限されます。
 例えば、京都市では、市の三方を囲む山並みや山裾など、歴史的に重要で景観上も価値のある地域が「歴史的風土特別保存区域」として指定されています。

 この制度は、古都の美しい景観や文化的価値を守るために、以下のような特徴を持っています。

  • 一体的な保存:歴史的建造物や遺跡だけでなく、それらを取り巻く自然環境も含めた一体的な保存を目指しています。
  • 総合的な計画:各指定都市は、歴史的風土を保存するための総合的な計画を立案し、実行に移します。
  • 行為の規制:新築や改築、土地の造成など、歴史的風土に影響を及ぼす行為には、事前の許可が必要です。
  • 代償措置:土地所有者に対しては、損失補償や土地の買入れなどの代償措置が用意されています。
  • 審議会の設置:重要な事項を審議するために、有識者から構成される審議会が設置されています。

これらの措置により、古都の歴史的風土が現代においても保護され、文化的な価値が後世に引き継がれるよう努められています。

規制内容

  それでは重要事項説明で説明が必要になる部分になるこの規制内容についてみていきます。

  法的根拠としては、古都保存法第8条第1項に記載があり、規制内容は以下の通りです。

  • 特別保存区域内で府県知事より許可が必要な行為
    • 建築物や工作物の新築、改築、増築。
    • 宅地の造成、土地の開墾、土地の形質の変更。
    • 木竹の伐採。
    • 土石の類の採取。
    • 建築物や工作物の色彩の変更。
    • 屋外広告物の表示又は掲出。
    • 歴史的風土の保存に影響を及ぼすその他の行為。
  • 許可基準に適合しない場合
    • 府県知事は許可をしない。
  • 特別保存地区ごとの制定
    • 複数の特別保存地区がある場合、それぞれの目的に応じて政令で定めることができる。
  • 社会資本整備審議会の意見聴取
    • 国土交通大臣は政令の制定や改廃に際して、社会資本整備審議会の意見を聴く必要がある。
  • 原状回復命令や代執行
    • 府県知事は保存のために必要な限度で、規定に違反した者に対して原状回復を命じたり、代替措置を命じたりできる。

 上記のように、歴史的風土保存区域より厳しい規制がかけられており、正直該当区域の土地建物を購入して何かを行うということはハードルが高いように感じます。

指定区域やその面積

  • 神奈川県(鎌倉市) 全573.6ha(5.73㎢)
  • 滋賀県(大津市) 全505.7ha(5.05㎢)
  • 京都府(京都市) 全2,861ha(28.61㎢)
  • 奈良県 全2,488.1ha(24.88㎢)
    • うち奈良市:1,809.0ha(18.09㎢)
    • うち天理市:82.2ha(0.82㎢)
    • うち橿原市:212.0ha(2.12㎢)
    • うち桜井市:304.0ha(3.04㎢)
    • うち斑鳩町:80.9ha(0.80㎢)

      総面積:6,428.4ha(64.28㎢)

土地所有者にとってのメリット

 特別保存地区では、厳しい規制の代わりに以下のようなメリットもあります。

 下記内容は、神奈川県鎌倉市の特別保存地区でのメリットです。

  1. 土地の所有コストを軽減できる優遇税制があります。
    • 相続税は、行為制限の内容を考慮して評価されます。
    • 固定資産税は、鎌倉市の市税条例により免除されます。
  2. 県が土地を買い入れた場合、譲渡所得には2,000万円の控除が適用されます。

 上記は一例であり、詳しい内容については各対象の自治体に確認をお願いいたします。

第一種歴史的風土保存地区及び第二種歴史的風土保存地区

「第一種歴史的風土保存地区」と「第二種歴史的風土保存地区」という区域もあります。
これは、奈良県にある明日香村にのみ適用される指定地区となります。

 以下にその地区の内容の詳細を書いています。

 第一種歴史的風土保存地区
 特に重要な歴史的風土を含む地域で、現状の変更が厳しく規制されています。
 例えば、奈良県明日香村にある高松塚古墳や石舞台古墳などがこの地区に含まれます。
 新築、改築、増築などの建築行為には府県知事の許可が必要です。
 土地の形質変更や木竹の伐採、土石類の採取なども許可が必要です。

明日香村の中で、125.6ha(1.25㎢)の部分が指定されています。

 第二種歴史的風土保存地
 第一種地区以外の地域で、著しい現状の変更が抑制されています。
 集落や農地を含む全域が指定され、歴史的風土の維持保存を図ることが目的です。
 第一種地区と同様に、建築物の新築、改築、増築などには府県知事の許可が必要です。

明日香村の中で、2,278.4ha(22.78㎢)の部分が指定されています。

 実は明日香村の総面積は24.10㎢となりますので、つまりほぼ全域が、この第1種、第二種歴史的風土保存区域に該当していることとなります。

規制内容について

明日香村全域が、歴史的風土保存地区となることから、明日香村では以下の行為がすべて許可制となります。

  1. 建築物その他の工作物の新築、改築、増築又は移転
  2. 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
  3. 木竹の伐採
  4. 土石類の採取
  5. 水面の埋め立て又は干拓
  6. 建築物等の色彩の変更
  7. 屋外広告物の表示又は提出
  8. 屋外における土石、廃棄物又は再生資源の堆積

さらに、建築をする際の規制でさらに細かく基準が定められています。

明日香村役場HPより。

 この画像は一例ですが、さらに建物であれば、屋根や外壁の形状や部材、色彩、仕上げの内容を細かく決められており、塀や擁壁の工作物にまで部材、色彩、仕上げの内容を細かく基準が定められております。
 詳しい規制内容については明日香村役場HPに記載があるため、気になる方はご参考ください。

明日香村で建築等などの指定された行為を行う場合の助成について

 厳しい規制ばかりが目につきますが、明日香村では以下の行為は助成がされます。

  • 建築物等の新築・改築・増築等に対する助成
  • 発掘調査に伴う建築物の基礎に対する助成
  • 生垣助成
  • 自然石による石積の築造に対する助成
  • 古都保存法第8条に基づく許可申請手続きに対する助成

まとめ

・古都保存法は、日本の歴史的風土を守り、文化的な価値を後世に継承するための特別な法律です。

・古都保存法による制限がある場合、重要事項説明書に記載されるべきポイントは、歴史的風土特別保存地区内での行為制限です。この区域は全国で10都市しか指定されておらず、この区域の土地建物を売買する場合には宅建業法上で説明が必要になります。

・歴史的風土保存区域は、古都の文化と自然環境を一体として保存するために古都保存法で指定された地域で、特定の建築や土地利用には届出が必要な規制が設けられています。

・歴史的風土特別保存地区は、歴史的風土保存区域よりも厳格な規制が設けられた地域で、土地所有者には税制上のメリットが提供されています。

・明日香村の第一種と第二種歴史的風土保存地区は、重要な歴史的風土を保護するために厳格な建築規制が設けられており、これに違反しない範囲での建築活動には助成が提供されています。

以上、古都保存法についてまとめてみました。

他にも重要事項説明で出てくる言葉の解説記事を書いていますので、ご参考ください。

タイトルとURLをコピーしました